「アルカリ性の薬剤は髪を傷めるから悪、酸性なら髪に優しいから善」
ここ数年、理美容業界ではこのようなイメージがすっかり定着しています。酸性縮毛矯正や酸性パーマの流行もあり、多くの技術者が「酸性=ノンダメージ・ローダメージ」と思い込んでいるフシがあります。
しかし、毛髪科学の視点から結論を言えば、これは大きな誤解であり、単なるマーケティング的な思い込みに過ぎません。
薬剤が酸性であろうとアルカリ性であろうと、髪の内部結合を切断して形や色を変える以上、「髪を傷める(負担をかける)」という点ではどちらも全く同じです。今回は、アルカリ性が嫌われる理由とその科学的メカニズム、そして見落とされがちな「酸性の落とし穴」を徹底解説します。
なぜ「アルカリ性の薬剤は髪を傷める」と言われるのか?
一般的なヘアカラー剤、パーマ1剤、縮毛矯正剤の多くにアルカリ剤が配合されているのはなぜでしょうか。そして、なぜそれがダメージに直結するのでしょうか。
アルカリ剤(アンモニアやモノエタノールアミンなど)が髪を傷める最大の理由は、「キューティクルを強制的に膨潤(軟化)させて開くから」、そして「髪の主成分であるケラチンタンパク質を溶かす(弱らせる)から」です。
具体的には、以下の3つのステップでダメージが進行します。
1. キューティクルの強制膨潤
健康な髪のpHは4.5〜5.5の「弱酸性」です。この状態が最もキューティクルが引き締まり、内部が守られています。しかし、アルカリ剤が髪に触れると、デリケートな毛髪は水分を急激に吸って大きく膨らみます(膨潤)。これにより、瓦状に美しく重なっていたキューティクルが強制的にこじ開けられてしまうのです。
2. 内部物質(間充物質・結合水)の流出
キューティクルが開いた隙間から、カラーの染料やパーマの還元剤が浸透していきます。しかしこれは同時に、髪の命であるケラチンタンパク質や、髪の潤いを保つ「結合水」などが外へ流れ出やすい状態を作っていることに他なりません。
3. アルカリの残留(最大のダメージ源)
施術後、シャンプーをしてもアルカリ剤は簡単に洗い流せず、髪の内部にシツコク残留します。施術から数日から数週間、髪がアルカリ側に傾いたままだと、日々のシャンプーやドライヤーの熱、紫外線といった日常生活の刺激だけでキューティクルが剥がれ落ちます。結果、内部がスカスカになり、カラーの褪色やパサつきが加速するのです。
アルカリ性はヘアデザインにおける「必要悪」である
ここまで読むと「やっぱりアルカリは悪じゃないか」と思うかもしれません。しかし、アルカリ性はヘアデザインを作る上で絶対に必要な「必要悪」なのです。
ヘアカラーにおけるアルカリの必要性
例えば、日本人の黒髪を明るく染める場合、過酸化水素水(オキシドール)によるブリーチ作用(脱色)でメラニン色素を破壊する必要があります。
この化学反応は、酸性や弱酸性の環境ではほとんど起こりません。アルカリ性が強ければ強いほど、ブリーチ作用はしっかり働きます。2浴式の弱酸性カラー剤が、いくらオキシを混ぜても髪を明るくできないのはこのためです。黒髪を明るくコントロールするには、アルカリは絶対に不可欠です。
パーマ・縮毛矯正におけるアルカリの必要性
パーマや縮毛矯正でも同様です。酸性やアルカリの弱い薬剤は、髪のS-S結合(システイン結合)を切断する力が環境的に弱くなります。そのため、酸性域で無理にかけようとすると、加温(熱処理)を強くしたり、長時間の放置(過剰還元)が必要になったりします。
また、弱酸性縮毛矯正などでクセを伸ばそうとするあまり、ウェット状態でのアイロン操作など、間違った熱処理で無理やり還元を補おうとすれば、結果的にアルカリ性で施術するよりも遥かに深刻なダメージ(炭化やビビリ毛)を引き起こすリスクが高まります。
「酸性なら髪に良い(傷まない)」という嘘
では、最近トレンドの「酸性パーマ」や「酸性縮毛矯正」なら安心かというと、全くそんなことはありません。ここにはプロこそ知っておくべき「酸性薬剤の落とし穴」があります。
【重要】酸性薬剤の落とし穴
酸性の薬剤は髪を膨潤させないため、一見するとキューティクルが整ったままに見え、手触りも良く感じられます。しかし、「キューティクルが開かない」ということは、同時に「薬剤が浸透しにくい」という性質を持ちます。
そのため、酸性施術では、キューティクルをすり抜けて内部にダイレクトに作用する非常にパワー(浸透性・揮発性)の強い還元剤(GMTやスピエラなど)を使用せざるを得ません。これらは髪の内部結合(S-S結合)を強力に切断します。
つまり、アルカリ性と酸性では「ダメージのアプローチ(傷み方)」が違うだけなのです。
- アルカリ性:髪を膨潤させて(外側をこじ開けて)薬を効かせる ⇒ 外側も内側も傷む
- 酸性:髪を膨潤させない代わりに、浸透性の高い強い薬で効かせる ⇒ 内側を強烈に破壊する
結果として、どちらも髪のシステイン結合を切断し、タンパク質に変性を起こしている事実に変わりはありません。「酸性だから傷まない」ではなく、「酸性でも見えないところでしっかり傷んでいる」というのが、髪のプロが直視すべき真実です。
まとめ:大事なのはpHの数値ではなく「引き算」の処理
「アルカリ=悪」と決めつける偏った思考は、プロとしての提案の幅を狭めます。
大切なのは、それぞれの特性を正しく理解し、目の前のお客さんの髪質やダメージを見極め、きちんとコントロールすることです。
|
薬剤のタイプ |
メリット |
デメリット・リスク |
|
アルカリ性 |
太い毛、撥水毛、強いクセを確実に伸ばす。黒髪を明るく染める。 |
キューティクルの膨潤、内部物質の流出、アルカリ残留による後続ダメージ。 |
|
酸性 |
アルカリダメージ毛やエイジング毛を、これ以上膨潤させずに形を変えられる。 |
強い還元による内部破壊。技術不足による過剰還元や熱変性のリスク。 |
どちらの薬剤を選択するにしても、施術において最も重要なのは「いかに早く残留薬剤(アルカリ、過酸化水素、還元剤)を完全に除去し、髪を本来の弱酸性(すっぴん髪)に戻すか」という点に尽きます。
コーティング剤で傷んだ事実を隠す「足し算の思考」ではなく、髪に余計なものを残さない「引き算のケア」こそが、お客様の髪のポテンシャルを最大限に引き出し、真の美髪へと導く唯一の正解です。
カラーやパーマのヘアダメージにはアルカリ中和、除去するのが大切!
インスタグラムでも情報発信してます!フォローお願いします↓
場末のパーマ屋のインスタグラム










