理美容室でパーマや縮毛矯正をかける際、多くの場合はpH9前後の「アルカリ性」の1剤を使用します。
「髪や頭皮は弱酸性がベスト」「アルカリは髪を傷める」というのは、今や多くの美容師さんやお客様が知っている常識です。
そのため、パーマ理論ではアルカリに傾いた髪を弱酸性に戻すために、アシッド剤や酸リンスといった処理剤がよく使われます。
しかし、このアルカリ除去(アルカリ中和)を行う「タイミング」を間違えると、髪を修復するどころか、逆にパーマの持ちを悪くし、深刻なヘアダメージを招く原因になってしまうのです。
今回は、昭和の時代から続く「間違ったパーマ理論」を解き明かし、化学的な視点から正しいアルカリ除去のタイミングを解説します。
昭和から続く「2剤前のアシッド処理」という罠
昭和の終わり頃、パーマ業界に一つの流行が生まれました。1剤のテストカール後、シャンプー台での「中間水洗」を省き、代わりに2剤を塗布する直前に酸リンス(アシッド・バッファー剤)をつけるという方法です。
当時はパーマの正確な化学反応がまだ完全に解明されておらず、メーカーの営業マンやインストラクターから、次のような謳い文句で広まりました。
「シャンプー台で1剤の中間水洗して流さなくても、このアシッド剤をつければアルカリの中和ができますよ!」
中間水洗の手間が省ける上に、実際にやってみると手触りが柔らかく、2剤特有の「髪がギュッと締まる感覚」も少なくなった気がするため、多くの美容師がこの工程を取り入れるようになりました。
しかし、これこそが「パーマを大失敗させる大間違いの元」だったのです。
なぜ2剤前の酸リンスはダメなのか?鍵は「イオン化」にあり
どうして2剤の前に髪を酸性にしてはいけないのでしょうか?
その理由を理解するには、髪の毛の中の「イオン化」という現象を知る必要があります。
パーマの1剤(チオグリコール酸やシステアミンなど)は、pHが高くアルカリ性になるほど「イオン化」が進みます。
$$RSH \rightleftharpoons RS^- + H^+$$
イオン化とは、還元剤(RS)と水素(H)が、目にも止まらぬ速さで「切れたりくっついたり」を繰り返している状態のこと。パーマや縮毛矯正において、髪のS-S結合(シスチン結合)を切断できるのは、この「イオン化された還元剤」だけです。
そして、このイオン化の仕組みは、2剤による「酸化(再結合)」のときにも全く同じことが言えます。
アルカリ性(イオン化している状態)の酸化
1剤で切断された髪のシステイン(S)がアルカリ性の環境にあるとき、システイン(S)と水素(H)は激しく切れたりくっついたり(イオン化)しています。
このグラグラ動いている状態のときに2剤(ブロム酸や過酸化水素)の酸素(O)がやってくると、水素(H)をパッと奪い取りやすく、水($H_2O$)となって抜けていきます。水素を奪われたシステイン同士は、スムーズに再結合(S-S結合)を果たすことができるのです。
酸性(イオン化していない状態)の酸化
しかし、2剤を塗る前にアシッド剤や酸リンスをドバッとつけて髪を酸性にしてしまうとどうなるでしょうか?
酸性環境下では、システイン(S)と水素(H)がガッチリとくっついて離れなくなってしまいます(イオン化しない状態)。
この状態で2剤の酸素(O)が来ても、水素をうまく奪い取ることができません。結果として、S-S結合の再結合が邪魔されてしまうのです。
結論:アルカリ除去は「2剤が完全に終わってから」!
2剤の前に髪を酸性にしてしまうと、1剤で切断された結合が繋がらないまま残る「切れっぱなしのシステイン」が大量に発生します。
これが、パーマがダレて持ちが悪くなったり、ガサガサに髪が傷んだりする最大の原因です。
近年トレンドとなっている、スピエラやGMTを使った「酸性パーマ」や「酸性縮毛矯正」で酸化不足が問題視されるのも、まさにこれが原因。元々が酸性領域のためイオン化しにくく、酸化の難易度が高いからです。
アルカリが髪に悪いのは紛れもない事実です。
しかし、パーマの化学反応を邪魔してはいけません。
パーマ工程におけるアルカリ中和・アルカリ除去は、
必ず2剤での酸化処理が完全に終了してから行う。
これが、髪を傷めずに美しいパーマをかけるための、絶対に曲げてはならない鉄則です。
そして・・・
よくあるクエン酸ベースのアシッド剤・酸リンスではアルカリ中和はできないってのも知りましょう!
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