縮毛矯正の歴史を変えた「低アルカリ・高還元濃度の1剤」誕生の裏話

「出来るだけ失敗をしないように安全に縮毛矯正を施術したい」

「縮毛矯正はダメージの激しいメニューなので出来るだけ髪を傷ませない薬剤を使いたい」

そんな現場の理美容師さんの思いから、2010年ぐらいから作られてきた「低アルカリ・高還元剤濃度の薬剤」

 

前回の記事⇩

低アルカリ高還元剤濃度は本当に安全か?毛髪科学から導く「縮毛矯正の最適解」

低アルカリ高還元剤濃度は本当に安全か?毛髪科学から導く「縮毛矯正の最適解」

ここで低アルカリ・高還元剤濃度の薬剤について詳しく解説したのですが…

今回は「なぜ低アルカリ・高還元剤濃度の薬剤が出来たのか?」その経緯についてお話したいと思います。

このコラムの前身であるブログ「場末のパーマ屋の美容師日記」がスタートしたのは2011年のこと。

その初期に紹介して大きな反響を呼んだのが、「低アルカリ・高還元濃度」の縮毛矯正剤でした。

今でこそ広く知られるようになったこのスペックですが、2010年当時は一部の超マニアックな美容師たちが、液体の還元剤をカチセロ(カチオン化セルロース)などでジェル状にして、自分たちで夜な夜な自作していたような代物だったのです。

なぜ、そこまでして「低アルカリ・高還元」の薬剤が必要だったのか? 少し時計の針を戻して、当時の美容業界の歴史を振り返ってみましょう。

 

縮毛矯正を襲った「ヘアカラーブーム」の衝撃

縮毛矯正が世に生まれてから10年ほど経った頃、美容業界に大きな変化が訪れました。「ヘアカラーブーム」の到来です。

それまでは「黒髪(健康毛)にかけるもの」だった縮毛矯正を、ヘアカラーをしている髪にかける機会が急増したのです。これがすべてのトラブルの始まりでした。それまでの現場では見たこともなかったような、髪がチリチリに傷む「ビビリ毛」などの深刻なトラブルが続出したのです。

その悪の根源こそが、薬剤に含まれるアルカリによる「還元暴走」でした。

 

現場の理美容師さんなら、こんな経験はありませんか?

【昔の縮毛矯正あるある】

1液を塗って放置中、大して分かりもしないのに髪を触って軟化をチェックする。

「うーん、まだ硬いな。あと5分追加!」 5分後……

「もうちょいかな、あと5分!」 さらに5分後……

「あ、やりすぎて髪がテロテロになってる(泣)」

これこそが、アルカリ暴走による過膨潤・過還元の現象です。

アルカリ度が高い薬剤は、時間の経過とともに急激に反応が強くなる性質があるため、ヘアカラー毛のようなデリケートな髪には、危なっかしくて使えたもんじゃなくなってしまったのです。

 

スペックの限界と「ジチオジグリコール酸」の真実

縮毛矯正が誕生した初期の、メーカーの限界マックスパワーのスペックは以下のようなものでした。

チオグリコール酸 7% / pH 9.5 / アルカリ度 7ml

また、メーカーによっては次のような処方もありました。

チオグリコール酸 11% / ジチオジグリコール酸 4% / pH 9.5 / アルカリ度 7ml

この「ジチオジグリコール酸」というのは、チオが二つくっついた成分です。一部の美容師さんの間では「ジチオ入りの高スペック薬剤を酸性水等で薄めれば、低アルカリ高還元になるのでは?」と言われることもあります。

確かにジチオは還元の「ブレーキ(過還元防止)」になると言われています。しかし実際のところ、ブレーキとしてどのくらい還元を邪魔しているのかが非常に分かりにくく、現場の美容師が還元度合いの計算がしにくくなるというデメリットがあります。

さらに、化学平衡の法則(ルシャトリエの原理)によって「ミックスジスルフィド」が増え、かえって髪へダメージを与える心配もあります。

そのため、場末のパーマ屋的な理論では、計算をシンプルにし余計なダメージリスクを排除するために、ジチオは使用しないもの(含まない薬剤)として考えを進めていきます。

こうした高アルカリのスペックは、カラーをしていない健康毛や硬い髪であれば問題ありませんでした。しかし、カラー毛やミドルダメージ毛にぶつけると、一発でビビリ毛になるリスクが跳ね上がります。

そこで各メーカーもpH 7〜8程度の薬剤を発売し始めましたが、当時の薬事法(現・医薬品医療機器等法)の関係で還元剤濃度は「上限7%」と決められていたため、アルカリを下げると同時に還元力もガクンと落ち、今度はクセがまったく伸びなくなってしまったのです。

ここで困った美容師たちが手を出した「水抜きアイロン」や「ウェットアイロン」が、さらなる水蒸気爆発ダメージを引き起こすという悪循環に陥っていました。

 

現代のボリュームゾーンを救う「第3の選択肢」

当時の髪質と薬剤の相性を整理すると、こうなります。

健康毛・硬毛・太い毛 → 高アルカリ・中還元(チオ7% / pH9.5)で問題なく伸びる。

ハイトーン・ブリーチ毛・ハイダメージ毛 → 低アルカリ・低〜中還元でも優しくアプローチできる。

問題は、その中間にいる「白髪染めや8トーン程度のカラー毛」「ミドルダメージ毛」「軟毛・細毛」という、現代の最も多いボリュームゾーンのお客様でした。

高アルカリ・中還元では危険すぎるし、

従来の低アルカリ・低〜中還元ではクセが伸びない。

 

そこで、アルカリ暴走の危険性が低く、無理な水抜きアイロンに頼らなくてもきちんとクセが伸びるスペックとして…

「pH 8〜9程度 / チオ濃度 10〜12%(ジチオなし)」

という【低アルカリ・高還元濃度】の1剤こそがベストである、という結論に達したのです。

髪を余計に膨潤させず、芯のクセだけを確実に解きほぐす。現場での計算のしやすさと安全性を突き詰めた結果が、この引き算の思考だったのです。

 


このコラムを書いた人 森下 秀彦(場末のパーマ屋)

美容業界誌での毛髪研究・専門技術開発特集への出演多数。群馬大学元教授との共同研究や特許成分の製品化協力など、科学的根拠に基づいたヘアケアを追求する毛髪専門家。現在は独自のヘアケア製品「DO-Sシャンプー」等の製造販売を手掛けながら、コラム『髪の毛のホントの話』を通じて本当のヘアケア情報を発信中。

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